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広島地方裁判所 昭和55年(ワ)105号 判決

主文

一  被告らは各自、原告松川秀吉に対し金五八八万五一八八円、原告松川節子に対し金五四三万五、一八八円及びこれらに対するいずれも昭和五五年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告松川秀吉に対し金二、二九四万三、八六〇円及び原告松川節子に対し金二、一八九万三、八六〇円、並びにこれらに対するいずれも昭和五五年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮に原告らの請求が認められるとしても仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五四年八月二一日午後一時二〇分頃

(二) 発生場所 広島市中区国泰寺町一丁目九番一三号尾鍋外科建築現場前国道二号線交差点(以下「本件交差点」という)

(三) 加害車両 当時被告長谷川廣(以下「被告長谷川」という)運転の被告有限会社占部商会(以下「被告会社」という)所有の大型トラツク(広島一一く三二四四)(以下「被告車」という)

(四) 被告車両 訴外松川和生(以下「訴外和生」という)の運転する足踏式二輪自転車

(五) 事故の態様 訴外和生が自転車に乗つて西方から東方に向けて進行し、本件交差点に差しかかり同交差点北側の横断歩道に進入した際、西方から東方に向けて走行し同交差点を左折しようとした被告長谷川運転の被告車と訴外和生が衝突し、さらにその場に転倒した訴外和生が被告車の後輪で轢過され、よつて訴外和生は同日死亡した。

2  責任原因

(一) 被告長谷川は、本件事故当時、被告車を運転していたものであるが、訴外和生は青信号に従つて本件交差点の横断歩道上を横断しようとしていたものであり、しかも被告車より先にすでに横断歩道に進入していたのに、被告長谷川は、左折する被告車の運転者として、横断歩道手前で一時停止し、前方及び左右等横断者の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つたため本件事故発生に至つたものであり、これらの点被告長谷川に過失があり、したがつて民法七〇九条により、同被告は訴外和生らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告会社は、本件被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたもので、本件事故はその運行によつて生じたものであるから、自賠法三条により訴外和生らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告らの地位と相続

原告松川秀吉(以下「原告秀吉」という)は訴外和生の父であり、原告松川節子(以下「原告節子」という)は訴外和生の母であつて、昭和五四年八月二一日の訴外和生の死亡により、同人の右損害賠償請求権をそれぞれ相続分二分の一の割合で相続したものである。

4  損害

(一) 逸失利益 各金二、三三九万〇、四五五円

(1) 訴外和生は、昭和四五年四月二六日生れで本件事故当時九歳の男子であり、将来は当然大学まで進学し卒業するはずであつたから、もし本件事故に遭わなかつたら、大学を卒業する満二三歳から就労可能な満六七歳まで、大学卒男子労働者の各年齢区分に応じた平均年収を得るはずであつた。したがつて、訴外和生の逸失利益は、昭和五二年度賃金センサス産業計企業規模計新大卒男子労働者平均年収を基礎とし、賃金上昇率を一〇パーセントとし、生活費の割合を四〇パーセントとしてホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して、昭和五五年四月二六日(満一〇歳になる)当時におけるその現価を求めると、別表のとおり四、六七八万〇、九一一円となる。

(2) そして、原告らは、訴外和生の相続人であるので、その法定相続分に従い各二分の一宛である各金二、三三九万〇、四五五円の右損害賠償請求権をそれぞれ相続取得した。

(二) 慰藉料 各金六〇〇万円

原告らが訴外和生を幼くして失なつた失望と悲哀は実に甚大であり、他面、被告らは原告らに対して慰藉を尽くしておらず、原告らの精神的苦痛は各金六〇〇万円をもつて慰藉されるとみるのが相当である。

(三) 葬祭費 原告秀吉につき金一〇〇万円

本件につき被告長谷川より金五万円、被告会社より金三〇万円の香典が支払われているが、なお葬儀費、墓石費などに原告秀吉の負担で出費を要し、右相当の損害を蒙つた。

5  損害相殺

原告らは、自賠責保険金として各金九四四万六、五九五円(計一、八八九万三、一九〇円)を受領したので、これを前項の損害額から控除すると、差引計金

原告秀吉は、金二、〇九四万三、八六〇円

原告節子は、金一、九九四万三、八六〇円 となる。

6  弁護士費用 原告秀吉につき金二〇〇万円

同 節子につき金一九五万円

原告らは、やむなく本件原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任したが、その弁護士費用のうち本件損害としては、右損害額の一割の範囲内である原告秀吉につき金二〇〇万円、同節子につき金一九五万円が相当である。

7  よつて、被告らに対し連帯して、原告秀告に対してはその損害合計金二、二九四万三、八六〇円及び原告節子に対してはその損害合計金二、一八九万三、八六〇円、並びにこれらに対するいずれも本件不法行為後で前記中間利息控除の基準日である昭和五五年四月二六日から支払いずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1の事実うち、(一)ないし(四)の事実及び同(五)中訴外和生が横断歩道を自転車により進行中被告車の後輪で轢過され同日死亡した事実は認めるが、その余は否認する。

2(一)  同2(一)の事実のうち、訴外和生が青信号に従い自転車により横断歩道上を進行中本件事故に遭つた事実は認めるが、その余は否認する。

被告長谷川は、本件交差点を左折するにあたり、右交差点手前約四〇メートルの地点で左折指示灯を作動させ、左車線を徐行し、かつ、本件横断歩道の手前で一時停止して左右の安全を確認した。そして異状がなかつたので徐々に発進し、右横断歩道を通過した直後後輪が何かに乗り上げたようなシヨツクを感じ、直ちに停車し、訴外和生を轢過したことに気がついた。それで直ちに同人を近くの尾鍋外科病院に収容するとともに、警察に事故の連絡をしたものである。したがつて、被告長谷川には過失はなかつた。

むしろ、本件事故は、訴外和生が、前方の横断歩道を被告車がすでに通過しているにもかかわらず、左後方から自転車により高速度で直進してきて、その前方を確認することなく、そのまま右横断歩道に進入したため、被告車の左横側面に衝突したものであり、被告長谷川としては避け得なかたもので、事故の原因は訴外和生の一方的な過失によるものであり、被告長谷川にとつては不可抗力の事故と言うべきである。

(二)  同2(二)の事実のうち被告車が被告会社の所有であることは認めるが、その余は争う。

被告長谷川は訴外芸美運送株式会社の従業員であり、被告会社との間には雇用関係など密接な関係は存在せず、また、被告車も、一時、訴外芸美運送株式会社に貸与していたものにすぎない。よつて、被告会社は当時被告車を自己のために運行の用に供していた者とは言えない。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の事実はすべて争う。

5  同5の事実のうち、原告らが同主張の自賠責保険金を受領している事実は認めるが、その余は争う。

6  同6の事実のうち、原告らが同主張の訴訟代理の委任をしている事実は認めるが、その余は争う。

三  抗弁

1  仮に被告会社が本件運行供用者であるとしても、運転者である被告長谷川には、前記二2(一)のように運転上の過失はなく、むしろ被害者である訴外和生に過失があり、また、被告車には構造上の欠陥、機能の障害も存在しなかつたもので、したがつて、被告会社には自賠法三条但書により本件賠償責任はない。

2  仮に被告らに本件賠償責任があるとしても、被害者である訴外和生には、前記二2(一)のように本件事故発生につき重大な過失があるうえ、なかんずく、訴外和生は、自転車に乗つたまま通行することが禁止されている横断歩道を自転車に乗つたまま高速度で通行し、かつ前方及び右方の注視を怠つていたもので、本件損害額の算定に当つては過失相殺として少くとも五割以上の相当額の減額が考慮されるべきである。

なお、原告らは、訴外和生の両親であり監護者であるから、いまだ九歳の訴外和生が自転車に乗つて遠乗りをすることなどのないよう充分監督すべき義務があつたのに、これを怠つた点過失があり、同過失も、右損害額の算定で考慮されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実はすべて争う。

2  同2の事実について、訴外和生が自転車に乗つたまま横断歩道に進入した事実は認めるが、その余は否認する。なお、自転車に乗つたまま横断歩道を進行することは禁止されていない。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の事実のうち(一)ないし(四)の事実及び(五)中訴外和生が自転車により横断歩道を進行中被告車の後輪で轢過され同日死亡した事実は当事者間に争いがなく、そして成立に争いのない甲第一号証、甲第八号証によると、右その余の事実を認めることができ、他に右認定を右左するに足る証拠はない。

二  被告らの責任

1  被告長谷川の責任

(一)  いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第七ないし第一二号証、乙第一ないし第四号証によれば、次のような事実が認められる。

(1) 本件交差点は、東西に通じる国道二号線とほぼ南北に通じる通称四〇メートル道路(以下「四〇メートル道路」という)とが交差する、信号機による交通整理の行なわれている十字型交差点で、同交差点北側には、東西に通じる幅員四メートルの横断歩道(以下「本件横断歩道」という)が設けられている。同交差点付近の国道二号線と四〇メートル道路は、ともに幅員二九メートルで、片側四車線、中央分離帯が設置されていて、歩車道の区別があり、歩道はいずれも自転車の歩道通行指定になつている。本件交差点付近の国道二号線北側歩道沿いには、高さ一・二メートル程度の植込みがあるが、右横断歩道西側付近及び同横断歩道の見とおし状況は良好であり、交通量は両道路とも輻輳しており、なお、本件事故当時、本件交差点中央北側付近で電話工事が行なわれており、防護柵が設けられていたが、その付近の車両通行は北側二車線で可能な状況にあつた。

(2) 訴外和生は、昭和五四年八月二一日午后一時ころ友人浜岡、川口の二人とともに本件横断歩道を渡つたところ付近にある釣り道具店へ行くため、いずれも自転車に乗つて、国道二号線北側沿いの歩道を浜岡、川口、訴外和生の順で進行し、本件交差点にさしかかつた。その際、訴外和生は約一〇メートル遅れて走行していた。そして、同日午后一時二〇分ころ本件交差点の本件横断歩道に、西方から東方に向けて、友人二人に続き、青信号で進入しようとした。

(3) 他方、そのころ被告長谷川は、被告車を運転し、国道二号線を西方から東方に向けて時速約四〇キロメートルで進行し、本件交差点にさしかかり、同交差点を左折すべく青信号に従い時速約一五キロメートルで左折を開始しようとしたが、その際、進路右方の前記電話工事現場に気をとられ、左方の確認を怠つたため、丁度被告車が本件横断歩道手前直前付近に至つたとき訴外和生は自転車に乗つたまますでに右横断歩道に一メートル位踏み込み横断しようとする状況にあつたのに、これに全く気づかず、右速度のまま進行し、本件横断歩道を通過した。

(4) 右通過の際、訴外和生は、被告車が右状況で本件横断歩道に進入したため、その運転する自転車が被告車の左側面に衝突しそうになり、これを避けるため左に転把し、北方に約四メートル、被告車と並行して走行したが避けきれず、被告車の左側サイドバンパーの前部から約三・〇二メートルの部分に接触して路上に転倒し、被告車の左後輪で轢過され、右腸骨骨折、肋骨骨折等の傷害を負い、約二五分後にこれらの傷害により死亡した。

以上の事実が認められる。

(二)  被告らは、被告長谷川が本件横断歩道の手前で一時停止し、かつ前方及び左右の安全を確認した旨主張しているが、いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、第九ないし第一一号証によれば、被告長谷川自身も本件事故直後には一時停止及び左方確認を怠つたことを認めていた事実が認められ、また、いずれも成立に争いのない乙第三、第四号証によれば本件事故の目撃者も、被告車が一時停止したところを見ていないことが認められ、さらに成立に争いのない甲第一、第七号証によれば、当時仮に被告長谷川が本件横断歩道直前で一時停止していたとしたら本件のごとき衝突事故は起り得ない状況にあつたと認められ、これらの事実に照らすと、前記被告らの主張事実もにわかに肯認しがたく、その主張に副う被告長谷川廣本人尋問の結果も信用することができない。

(三)  以上の事実からすると、被告長谷川は、本件交差点を左折し、本件横断歩道を通過しようとするに当つては、当時明らかに横断歩行者のいない状況でもなかつたのであるから、自動車運転者として、その横断歩道直前で停止できる程度に十分徐行して横断歩行者(自転車に乗つている場合も、これに準じて含む、以下同じ)の有無を確認し、もし横断歩行者のある場合は、本件横断歩道の直前で一時停止して横断者の通行を妨げないようにすべき注意義務があるのに、これを怠り、時速約一五キロメートルで、しかも、右方の電話工事現場に気をとられ、左方の横断者の有無の確認をしないまま、訴外和生が青信号に従いすでに本件横断歩道に進入し横断しようとしているのにこれに気づかず、漫然そのまま進行したため、本件衝突に至つたものであり、この点その過失は明らかなものといえる。したがつて、被告長谷川は民法七〇九条により本件賠償責任を負うべきものといえる。

2  被告会社の責任

(一)  被告会社が被告車を所有していることは当事者間に争いがないところ、さらに、成立に争いのない甲第二号証及び被告代表者占部貞人、被告長谷川廣の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば次のような事実を認めることができる。

被告長谷川は、昭和五三年一〇月から訴外芸美運送に運転手として勤務していたが、本件事故の前日、訴外芸美運送の上司から、陸上運送業等を営む被告会社の車両を使用して被告会社の仕事をするよう命じられ、同日、被告会社のところへ被告車を取りに行つて、広島市内で鋼材を積み、本件事故当日の早朝、山口県防府市まで運送し、その後、同所からの帰途、本件事故をひき起こした。なお、被告会社は、右の運送に対して被告長谷川に手当を支払つていた。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、被告長谷川は当時被告会社の業務のためにその所有する被告車を運転していたもので、被告会社は、当時被告車を、自己のために運行の用に供していた者と認めることができ、したがつて、自賠法三条本文により本件賠償責任があるものといえる。

(二)  抗弁1(自賠法三条ただし書の免責の抗弁)について

前記二1で認定のとおり、運転者被告長谷川に過失のあつたことが明らかであるから、右抗弁はさらにその余の点につき判断するまでもなく理由がないものといえる。

三  請求原因3(原告らの地位と相続)について

成立に争いのない甲第一二号証、原告松川秀吉本人尋問の結果(第一回)によれば、右事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

四  損害

1  逸失利益 各金一、〇四七万九、七五九円

(一)  原告松川秀吉本人尋問の結果(第一回)、当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外和生は昭和四五年四月二六日生で、本件事故当時満九歳の小学校三年生の健康な男児であつて、もし本件事故に遭わなければ、少くとも高校を卒業して就職すると考えられる満一八歳から一般男子の就労可能年齢満六七歳までの四九年間稼働可能であり、その間、平均的にみて、昭和五五年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者学歴計、全年齢平均の年収三四〇万八、八〇〇円を下らない程度の収入を得ることができたものと推認するのが相当であり、そして同人の生活費は、満一八歳に達するまでの養育費も考慮し、右五〇パーセントをこえないものと認めるのが相当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、右事実からして、ライプニツツ式計算法(本件ではこれによるのを相当と認める)により年五分の割合による中間利息を控除して、満一〇歳になる昭和五五年四月二六日当時における逸失利益の現価を求めると、左記算式により金二、〇九五万九、五一八円となる。

340万8,800円×0.5×(18.7605-6.4632)=2,095万9,518円

(二)  相続

原告らは前記三のとおり訴外和生の相続人であるので、その相続分に従い、各二分の一宛右損害賠償請求権を相続取得し、結局、原告ら各金一、〇四七万九、七五九円となる。

2  慰藉料 各金五〇〇万円

前記認定した各事実、ならびにその他弁論にあらわれた諸般の事情を斟酌して、訴外和生の死亡により原告らの蒙つた精神的損害は各五〇〇万円をもつて相当と認める。

3  葬祭費 原告松川秀吉につき金四〇万円

原告松川秀吉本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、訴外和生の父親である原告秀吉は、その葬儀費用として相当額の支出をし、また、訴外和生のため、墓石建立を予定していること、及び右香典として、被告長谷川は金五万円、被告会社は金三〇万円を支払つている事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実及び前認定の諸事情によれば、原告秀吉の葬祭費による損害として金四〇万円を認めるのが相当である。

五  抗弁2(過失相殺)について

訴外和生が自転車に乗つたまま横断歩道に進入した事実については当事者間に争いがない。そして前記二1の各認定事実のほか、さらにいずれも成立に争いのない乙第二ないし第四号証によれば、訴外和生は国道二号線北側の歩道を自転車に乗つて早い速度で走行し、本件横断歩道に至るも一時停止・減速等をすることなく、そのまま自転車に乗つてその横断歩道に進入し、直前を通過する被告車を避け得ず、本件衝突に至つている事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、前記及び右各認定事実に照らしてみるに、たしかに道路交通法上、横断歩道は歩道と異なり、自転車に乗つたままでの通行は一般に認められないものと解される(同法二条一項二号四号六三条の四、七)うえ、本件についても、訴外和生が自転車に乗つたまま、しかも早い速度で本件横断歩道に進入し、これを通過しようとしたことが、本件事故発生にかなり寄与している事実を認めることができるが、しかし、他方横断歩道における歩行者優先と車両の一時停止等の道路交通法上の強い規制(同法三八条)を考慮に入れると、被告長谷川の過失が重大であり、結局、本件については、過失相殺としてその損害のうち逸失利益についてのみ、一〇%の減額をするのを相当と認められる。

なお、被告らは、訴外和生の両親である原告らの監護者としての過失を問題にしているが、しかし、前記認定のとおり訴外和生は本件事故当時満九歳であり、また原告松川秀吉本人尋問の結果(第一回)によれば、訴外和生は自転車にもかなり慣れていた事実が認められるから、原告らには訴外和生が自転車に乗つて遠乗りをするなどのないよう監督すべき義務があつたとは認められず、したがつてこの点で原告らに過失はない。

以上のことからすると、右過失相殺後の原告らの逸失利益による各損害額は次のとおりとなる。

各金九四三万一、七八三円

六  損益相殺

請求原因5の事実については当事者間に争いがないので、原告らにつきその各損害額から各受領保険金九四四万六、五九五円を控除すべきこととなる。

右によると、原告らの各損害額合計は差引次のとおりとなる。

原告秀吉 金五三八万五、一八八円

原告節子 金四九八万五、一八八円

七  弁護士費用 原告秀吉につき金五〇万円

原告節子につき金四五万円

原告松川秀吉の本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは、本件原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用として賠償額の一〇パーセントを支払う旨約している事実が認められるところ、さらに右証拠によりうかがわれる本件事件の難易、訴訟及び訴訟に至る経過などの諸事情を考慮すると、右約定の弁護士費用のうち、本件損害としては、原告秀吉につき金五〇万円、原告節子につき金四五万円と認めるのが相当である。

八  以上によると、原告らの各損害合計額は、次のとおりとなる。

原告秀吉につき 金五八八万五、一八八円

原告節子につき 金五四三万五、一八八円

九  結論

以上によれば、被告らは連帯(不真正)して、原告秀吉に対しては右損害合計金五八八万五、一八八円、原告節子に対しては右損害合計金五四三万五、一八八円、及びこれらに対するいずれも本件不法行為後で前記中間利息控除の基準日である昭和五五年四月二六日より支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきで、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺伸平)

別表

〈省略〉

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